帝国警察のウィンダム警部とバネルジー部長刑事は、カルカッタ訪問中の藩王国王太子の一団に同行していた。
バネルジーは王太子の同窓生であり、あだ名で呼び合う親しい間柄だったのだ。
その道中で、二人は王太子から私的に相談を受ける。
王太子がカルカッタに向けて出発する数日前、部屋に奇妙な書状が二通置かれていたという。
一通はベッドの枕の下にあり、もう一通はスーツのポケットの中で、内容はどちらも同じ。
なんとも訝しい出来事だが、その相談の最中に、もっと恐ろしいことが起こってしまった。
僧衣を身にまとった男が突然飛び出してきて、王太子に二発の銃弾を撃ち込んだのだ。
王太子は倒れ、男は逃亡。
なぜこのカルカッタで藩王国の王太子が狙われたのか、そして書状に隠された謎は何なのか。
ウィンダムとバネルジーは、藩王国の王宮に乗り込むが―。
警察として大失態!挽回する方法は?
『マハラジャの葬列』は、英国人警部とインド人部長刑事のシリーズ第二弾です。
舞台は前作から一年後のカルカッタで、ウィンダムとバネルジーは一年の同居生活を経て、ずいぶんと打ち解けた感じ……に思えたのですが、そんな雰囲気を吹き飛ばす大事件が、いきなり起こります。
なんと二人の目の前で、藩王国からやって来たアディール王太子が暗殺されてしまうのです!
二人は警察官であるにもかかわらず暗殺を阻止できず、しかも真昼間だというのに、襲撃者を見失ってしまいます。
これって国際問題ですし、かなり責任重大ですよね。
ウィンダムは上司から厳しい叱責を受けて落ち込むし、バネルジーは大事な友人を救えなかったことで虚脱状態に陥るしで、二人は大ピンチ!
さらに厄介なことに、藩王国はイギリスの統治外であり、帝国警察に所属している二人には捜査権がありません。
これでは王太子暗殺の真相を暴くことも、警察官としての雪辱を果たすことも、友の敵を討つこともできませんよね。
そこで二人は「奥の手」を使って藩王国に入り、独自に捜査を始めます。
いや~持つべきものは、周囲を黙らせる強引さと家柄ですね(笑)
ということで舞台はカルカッタから藩王国に移り、二人は警察官でありながら警察としてではなく非公式に真相を追うことになります。
このように冒頭から怒涛のような展開が続き、ハラハラドキドキで目が離せません。
大富豪のすごさに目を奪われる
『マハラジャの葬列』は、豪華絢爛な藩王国の様子も見どころです。
実はインドで一番の大富豪は世界一の大富豪だそうで、インド全土の約5分の2を占めている藩王国の王族は、かなり羽振りが良いです。
黄金ビカビカ、宝石ジャラジャラ、シルクがテカテカで、ターバンの飾りもガチョウの卵サイズのサファイアだったりするので、読者は別の意味で目が離せなくなります。
思えば、前作『カルカッタの殺人』は真逆でした。
イギリス統治下のインドで、民衆がどれだけ差別や貧困で苦しんでいたかが赤裸々に描かれており、日本では絶対にありえない光景に読者はカルチャーショックを受け、そこがある意味見どころでした。
それに対して今作はめちゃめちゃゴージャス!
これもまた当時のインド地方の姿なのでしょうから、そういう意味でこのシリーズは、ホント読者にいろんなカルチャーショックを与えてくれます。
そこが興味深いし、たまらなく魅力なのですよね。読むたびに見識が深まっていく感じです。
もちろん、ゴージャスな描写だけで終わる物語ではないですよ。
藩王国の王宮にはドス黒い陰謀が渦巻いており、ウィンダムとバネルジーはガッツリ巻き込まれてしまいます。
アディール王太子とは別の王子まで殺されたり、毒殺なのに病死と発表されたり、老いた国王の跡取り問題が勃発したりで、とにかく胡散臭さや禍々しさに満ち満ちているのですよ。
そのような中で、本来は捜査できない立場の二人がどう奮闘するのか。海千山千の大富豪たちを相手取って、事件をどう解決していくのか。
英国諜報機関まで出てくるし、国同士のしがらみも関わってくるので、入り組んだ面白さにページをめくる手が止まらなくなります。
世界的に高く評価された二作目
前作『カルカッタの殺人』に続いて、インドの歴史的事実を学ぶとともに、エキゾチックなムードを堪能させてくれる作品でしたね。
前作ではヒストリカル・ダガー賞やエドガー賞など複数の賞を受賞しましたが、今作ではなんとウィルバー・スミス冒険小説賞を受賞!
さらにゴールド・ダガー賞、スティール・ダガー賞、ヒストリカル・ダガー賞にもノミネートされたというのですから、すごいです。
世界的にかなり評価されている作品なのですね。
確かに、舞台設定やキャラクター設定の面白さ、事件の複雑さなど、どれをとっても魅力的!
個人的には、ウィンダムの恋路に興味津々でした。
相変わらずのアヘン中毒ですし、亡き愛妻に対する想いも強く残っているのですが、それでも混血の女性アニーに心を惹かれて、積極的に追いかけるのですよ。
またこのアニーが面白いキャラクターで、美貌を生かして政府の要人たちをオトしまくり、王太子までトリコにしてしまうのです。
それを追いかけるウィンダムが、まるで不二子ちゃんを追いかけては逃げられるルパン三世のようで、見ていて楽しいったら!
シリーズはまだまだ続くようですので、ウィンダムとバネルジー、そして不二子ちゃんもといアニーの今後の活躍に期待です!
