サラ・ペナー『薬屋の秘密』- その薬屋には、女性を救うための罪深い秘密がある

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結婚10周年に夫と旅行する予定だったキャロラインは、直前に夫の不貞が発覚したため、一人でロンドンに行くことに。

せっかくの記念旅行が傷心旅行になってしまい、落ち込むキャロラインだったが、テムズ川のほとりでふとガラス瓶を見つける。

ちょっとした動物のロゴが彫られた、古びたガラス瓶だった。

いわくを感じたキャロラインは、自身が歴史学を学んでいたこともあり、調べてみることにする。

すると驚くべきことがわかってきた。

どうやらその瓶は、18世紀の薬屋が起こした連続殺人事件、それも毒薬を使った事件に関わりがあるようなのだ。

約200年も前のロンドンで、一体何があったのか。

独自に調べを進めるキャロラインだが、それがやがて彼女の人生を大きく変えていくことになり―。

目次

二つの時間軸で進むストーリー

著:サラ ペナー, 翻訳:新井 ひろみ
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『薬屋の秘密』は、アメリカの女性キャロラインが、18世紀ロンドンの連続殺人事件について調べていくというミステリー小説です。

現代パートと過去パートとに分かれており、交互に切り替わりながら物語が進んでいきます。

現代パートの主人公は、キャロライン。

知的で芯のある女性で、序盤こそ夫の浮気で傷付きネガティブになっていますが、過去の事件を調べ真相を知っていくことで、どんどん強さを身につけます。

一種の成長物語であり、彼女が得た強さは、夫の裏切りに対する思いや自分自身の生き方をも変えていきます。

一方過去パートの主人公は、薬屋のネッラ。

ロンドンの裏路地でひっそりと薬屋を経営しているのですが、ネッラが調合する薬は実は毒薬。

それも、「男性のみ」をターゲットとしています。

男尊女卑がまかり通っていた当時のロンドンでは、多くの女性が虐げられており、ネッラは彼女たちを救うために暗殺用の毒薬を作っているのです。

その毒薬は、ワインやパイに混ぜ込めば、証拠を残すことなく男性を殺すことができます。

要はネッラは、女性が恨みを晴らす手伝いをしているわけですね。

物語は、現代パートでキャロラインが謎を追い、過去パートで真相がネッラ本人によって語られるという形式になっています。

そのため謎解きミステリーではなく、一種の倒叙ミステリーのような感覚で読むことができるのです。

暴かれていく過去の悲しみ

二つのパートのうち、展開がよりドラマティックなのは過去パートです。

まずネッラの生き様が、とても悲劇的。

彼女は毒薬を調合することで女性たちを救っていますが、その毒は自身の体をも蝕んでいます。

痛みは片時も離れず、指は皮膚が避けんばかりに腫れ上がり…という具合で、ネッラは女性たちを救えば救うほど、死に近づいていくのです。

それでも虐げられる女性たちに手を差し伸べずにいられない、そんなネッラの優しさが悲しくて、読者はどんどん切なくなっていきます。

そしてネッラに毒を調合してもらった女性たちも、一人一人がドラマティック。

男性に裏切られたり、こき使われたり、乱暴されたり、ぼろ布のように捨てられたり……。

「そういう時代だった」のかもしれませんが、身も心も傷だらけの様子は、あまりにもいたたまれません。

だからこそ彼女たちはネッラに救いを求めるのですし、救われた後は、ネッラの薬屋について絶対に他言しないことが暗黙の了解になっています。

もしもネッラが警察に捕まってしまったら、自分と同じように苦しむ女性たちを、もう救ってもらえないからです。

そんな彼女たちの秘密の共有もまた、悲しくてやるせないですね……。

このように過去パートでは、ネッラの毒薬がどのように使われてきたかが描かれます。

果たして殺人の秘密は、このまま守られ続けるのか。

毒に蝕まれたネッラは、その後どうなるのか。

そして現代パートでキャロラインが見つけた空き瓶には、どんなドラマが秘められていたのか。

物語は過去と現在との間で大きくうねりながら、怒涛のクライマックスを迎えます。

悲しみと希望とが交錯し、ページをめくる手を止められなくなるほどです。

温かさと強さをもらえる物語

『薬屋の秘密』は、アメリカの作家サラ・ペナーさんのデビュー作です。

発売されるや否や、「ニューヨークタイムズ」でベストセラーリスト入りし、全米で話題となりました。

たちまち40言語に翻訳され、アメリカだけでなくカナダやヨーロッパ諸国でもベストセラー入りしたというのだから、すごい勢いですね!

本書の魅力は、一言でいうと「女性としての絆」が描かれている点だと思います。

苦しんでいる女性たちを、自分の命と引き換えにしてでも救おうとするネッラ。

そんなネッラを献身的に支える少女イライザ。(この子がまた可愛くて優しくて、涙が出るほど温かい!)

そしてネッラの薬屋の秘密を守り続ける女性たち。

彼女たちは皆、血の繋がりもなければ友達同士でもないのに、悲しみから生まれた絆でお互いをかばい合っています。

そこにあるのは、「一人でも多く不幸から脱け出してほしい」という切なる願い。

そんな関係性が、読者の胸を突き、涙腺を緩ませるのです。

やがてその思いは、時を経て、キャロラインの生き方にも光を与えます。

夫の裏切りでどん底状態だったキャロラインが、18世紀のロンドンで何があったかを知り、それをきっかけに新たな道を歩み始める過程は、とても感動的ですよ。

悲しいけれど、女性が虐げられていた時代は、歴史上で確かにありました。

でもそれを乗り越えたからこそ、今があるわけで。

今の時代もまだ虐げられている部分はあるけれど、一人一人が強く生きる意志を持つことで、未来は良い方向に変わっていく。

『薬屋の秘密』は、そんな希望を抱かせてくれる物語だと思います。

心が温かくなるとともに、強くなれる作品なので、興味を持たれた方はぜひ読んでみてくださいね!

著:サラ ペナー, 翻訳:新井 ひろみ
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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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