同人活動をしていた“私”は、ネット上での創作活動を通じて、「りん」と仲良くなった。
即売会で実際に会ってからはすっかり意気投合し、直接会って遊ぶほどの仲に。
ある日りんの家で“私”は、奇妙な紙を見つけた。
人の顔が不気味に引き伸ばされて写っている紙で、右上から左下にかけては人名らしき文字が書かれていた。
さらに奇妙なことに、紙を手に取った途端、部屋中に「どん!」という鈍い音が響いたり、家具を引きずるような音が聞こえてきたりしたのだ。
りんはこの紙を、儀式で使うお札のようなものだと言う。
薄気味悪さを感じた“私”は、少しずつりんと距離を置くようになった。
それからしばらく経ったある日、“私”は街中で再びあの紙を見た。
しかしそこに写っていたのは、かつて見た人の顔や名前ではなく、りんの顔と「横次鈴」という名前だった。
しかも紙は一枚ではなく、大量。
なぜ街中に、りんの顔や名前が、こんなにもばらまかれているのか。
りんがかつて行っていたという「儀式」は失敗したのだろうか……?
読者が後悔した時には手遅れ?
『かわいそ笑』は、全五編からなるホラー連作短編集です。
いわゆるモキュメンタリー(実話を装った創作)であり、ある女性が自分の体験を筆者の梨さんに相談し、梨さんがそれを中短編としてまとめる、というていで描かれています。
最初に断っておきますが、この物語、相当に怖いです!
それぞれのエピソードがかなり不気味な上、絶妙なシーンでショッキングな画像や写真が出てくるので、思わず叫び声をあげてしまうこともしばしば。
しかも読み進めていくと、読者は物語上の恐怖だけでなく、なんと身の危険も感じるようになってしまいます!
特に最後のエピソードでは、今後無事に生きていく自信すら失われてしまうかも…。
ちなみに呪いに興味がある方には、本書はおすすめです。
というのも、実際に人を呪う方法が描かれているからです。
たとえば、憎い相手の顔や名前を用紙の右上から左下にかけて斜めに配置したり、怪談の主人公の名前を憎い相手の名前に置き換えたり。
創作とはいえドロドロした雰囲気がすごいので、呪いのムードを楽しみたい方にはピッタリの一冊です。
でも、読む時には一応覚悟をしてくださいね。
終盤で、ある事実が明かされるのですが、その時に後悔しても手遅れかもしれないので……。
各話のあらすじと見どころ
『これは横次鈴という人が体験した怪談です.docx』
相談者の女性が、ネットで知り合った「りん」の家で奇妙な紙を発見する話です。
紙の画像はページ内に掲載されているのですが、人の顔と名前とが斜め方向に不自然に引き伸ばされており、見た瞬間目を逸らしたくなるほど恐ろしい!
りんによると何かの儀式らしいのですが、やがて彼女自身がその儀式の対象にされます。
一体何の儀式なのでしょうか。
真実は、ずっと後になってから明かされます。
『behead- コピー』
ネットのオーバードーズスレで、「すず」と名乗る人物が写真をアップします。
女性の首から下だけが写っている写真で、すずはどうやら誤ってアップしてしまったようです。
なぜ頭が写っていないのか、その秘密は後々明らかになります。
頭がない状態でもこれだけ怖いのに、あった場合、まさかあんなことが起こるなんて……。
特に、QRコードには要注意です。
『受信トレイ(15)』
「あらいさらし」について書かれたチェーンメールの物語です。
本来「洗い晒し」は死者の魂を救う儀式なのですが、メールにある「あらいさらし」は、死者を冒涜するような内容。
場所は古いトイレで、遺体は腐乱した状態、さらに奇妙な制服を着せられており、画像ではなぜか首から上がないのです。
一体何を目的とした儀式なのか、ここにも身の毛がよだつ謎が隠されています。
『##name1##』
「横次鈴」と思われる人物がホームページで公開した小説が紹介されます。
いかにも素人っぽいイタい内容の小説なのですが、問題は内容よりも名前。
その後なぜか、ネット上の様々な怪談の主人公の名前が、「横次鈴」に置き換えられていくのです。
まるで一種の呪いのように―。
『0x00000109』
これまでに登場した謎の、答え合わせ的な章です。
奇妙な紙の謎、首のない写真の謎、あらいさらしの謎、名前の書き換えの謎などなど、一連のことが、ある目的によって行われていたことが明らかになります。
と同時に衝撃的な真実が明かされるのですが、これは読者を顔を真っ青にさせることでしょう。
なぜ本書のタイトルが『かわいそ笑』なのか、読者は思い知ることになります。
読者を強制的に巻き込むホラー
『かわいそ笑』は、オカルト界で人気急上昇中のホラー作家・梨さんのモキュメンタリーです。
梨さんは執筆の過程で「恐怖感よりも気持ち悪さや不快感」を目指されているそうで、『かわいそ笑』はまさにそのものズバリと言える作品です。
幽霊や怪異といった直接的な恐怖要素ではなく、生理的に拒絶したくなるような薄気味悪い要素が多数出てくるのです。
たとえば用紙に斜めに書かれた名前や廃トイレでの儀式などですが、それらのひとつひとつが不気味ですし、想像するだけで背筋がゾワッとして、不快なイメージが頭からいつまでも抜けなくなるほどです。
そのくらい描写が丁寧ですし、心の嫌な部分を突くような表現が山盛りなのです。
さらに、読者参加型の作品であることも、『かわいそ笑』の大きな特徴です。
最初にQRコードが紹介されているのですが、読者が興味本位でそれを読み取ると、ある場所に誘導されてしまいます。
また、ひとつひとつの物語を読み進めていく中で、読者は知らず知らずのうちに重大な企みに加担させられることになります。
最終章でそのことに気付いた時のショックと言ったらもう……!
このように『かわいそ笑』は、物語の怖さを味わうだけでなく、自分がどんどん巻き込まれていく不安感も一緒に味わえる作品です。
読書でホラー体験をしてみたい方は、ぜひお手に取ってみてください!