若く有能な医者である神野智明の妻・由香里。
ハイスペックな夫と裕福な生活をしている彼女は、誰から見ても幸せそうだった。
一方、企業で広報として働く繭美は、婚活でなかなか良い出会いに恵まれず焦っていた。
そんな時、理想の結婚相手と言える神野に会い、心惹かれる。
ところが神野には既に妻がいる上、大学時代に繭美が可愛がっていた後輩を強姦したという過去まであった。
そうとは知りつつも、神野の妻の座が欲しくなった繭美は、由香里のことを調べ上げる。
あんな地味な女よりも、私の方が彼の妻に相応しい―。
その後、突然由香里が失踪し、一週間後に海で遺体となって発見された。
自殺のように思われたが、幸せに暮らしていた主婦が自殺などするだろうか?
警察は夫である神野に疑いをかけるが、果たしてその真相は?
イケメン医師を取り巻く女たち
『彼女たちの犯罪』は、一人の男によって人生を狂わせていく四人の女を描いた、群像ミステリーです。
愛憎の入り乱れるドロドロな展開と劇的などんでん返しが魅力の物語ですよ。
中心となる男の名は、神野智明。
世田谷の高級住宅に住むお坊ちゃんで、有能なイケメン医師。
でも女グセが悪くて、大学時代に後輩をレイプしたことがあり、現在も妻がいるのに繭美に手を出す、いけ好かない男です。
そして彼を取り巻く四人の女性の一人が、神野の妻の由香里です。
地方出身で地味な自分に自信がなく、夫とは長らくレスの状態。
なのに義母から子供を催促されており、また使用人のように扱われていることからも、日々に不満を抱えています。
目的は、高額な慰謝料をもらって離婚し、自由になること。
次に、神野の不倫相手である繭美。
後輩がレイプされたことで神野を恨んでいますが、スペック的には理想なので、妻の座を狙っています。
目的は、神野と由香里を離婚させ、自分が新たな妻となること。
次に、神野の元カノで、由香里の友人でもある翠。
両親を事故で亡くし、多額の遺産を相続したものの、人生を悲観しています。
由香里を心配し、神野との離婚を勧めています。
目的は、死に場所を見つけて自殺すること。
それから、繭美の後輩であるA子。
大学時代に神野にレイプされた張本人で、目的は神野に復讐すること。
このように四人の女性たちは、それぞれに神野に複雑な思いを抱いています。
そしてその思いが交錯し、恐ろしい事態を招いていくのです。
二度見必至のまさかの真相
恐ろしい事態、といっても起こる事件はただひとつ、由香里の自殺です。
この事件の裏に、とんでもない事実がいくつも潜んでいるのです。
由香里は東京を出て静岡の海岸に行き、遺書らしき文章を残して崖から海に飛び込んでおり、どう見ても自殺です。
でも幸せな暮らしをしている彼女に自殺する理由が見当たらないため、警察は他殺の可能性も考えます。
容疑者として挙げられたのは、夫・神野と不倫相手・繭美ですが、繭美にはアリバイがあったため、警察は主に神野をマークします。
すると、怪しい情報や目撃証言が出るわ出るわ。
由香里から離婚と高額な慰謝料とを要求されていたこと。
事件当日に静岡まで行って由香里と食事をしていたこと。
由香里が身を投げた崖の近くに、神野の愛車が停まっていたこと。
ここまで証拠が揃っていたのでは、神野はさすがに言い逃れができず、あえなくお縄となります。
こうして事件は一件落着…、に見えますが、これでは全くハッピーエンドではないですよね。
由香里は死んでしまうし、繭美は神野が逮捕されたため結婚どころではなくなるし、翠もA子も到底幸せになれたとは言えません。
誰も目的を果たせていないので、物語としてあまりにも残念です。
でも実はここからがクライマックス!
神野が逮捕された裏で、例の四人の女性たちが驚異的な暗躍をしていたことが明かされるのです。
これがもう、読者の予想の斜め上を行くものであり、驚きの連続ですよ。
特に由香里の遺体の真相と、A子の正体については、目をひん剥いて二度見してしまったくらい驚かされました!
しかも彼女たちは決して不幸なまま終わっておらず、大金を手に入れるなど、それぞれに納得できる結果を得ていたのです。
ハッピーエンドと言えなくもないけれど、めちゃめちゃダークな部類のハッピーエンド。
あまりにも予想外すぎる結末に、読者は最後まで目を白黒させながら楽しめること間違いなしです!
ドラマ化もされたどんでん返しミステリーの傑作
いや~、すっかり騙されました!
まさかこれほど意外な真相が隠されていたとは、読んでいる間、1ミリも気付きませんでしたよ。
『彼女たちの犯罪』は、そのくらい激しいどんでん返しを見せてくれる作品です。
作者の横関 大さんは、どんでん返しに定評があり、代表作「ルパンの娘」シリーズでも、数々の超展開で読者をアッと驚かせてきました。
そのため個人的には、本書『彼女たちの犯罪』も、横関さんの作品ということで警戒しながら読んではいたのですが、それでも見事に驚かされましたね~。
伏線の張り方が絶妙で、なんでもない部分にさりげなく重要ワードを織り交ぜてくるので、なかなか見抜けないのですよね。
後から読み返すと、「あ、こんなところにも伏線が!」と気付ける部分が多いので、それを目的に二度目を読んでみるのも楽しいかもしれません。
とはいえ、オチがあまりにもダークなので、読後は良い意味でモヤモヤが残ります。
彼女たちがその後どうなるのか、果たして幸せと言える人生となるのかが気になって、読了後もズーンと考えさせられるのです。
ひとつ言えるのは、「女性たちを真剣に怒らせるとめちゃめちゃ怖い」ということでしょうか(汗)
願わくば、友好的に平和的に過ごしたいものですね!
とにかく、『彼女たちの犯罪』はかなりドッキドキしながら読める傑作です。
ドラマ化もされた話題作ですので、ぜひお手に取ってみてくださいね。