芦花公園『異端の祝祭』- カルト教団の不気味な背景に迫る新感覚ホラー 

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就職浪人生である島本笑美は失敗続きの毎日に疲れていた。

失敗の原因は自分でもよく分かっている、それは彼女の普通の人とは異なるとある点が原因だった。

―そう、彼女には生きている人間とそうでないものとの区別がつかないのだ。

そんな不幸な体質の少女はある日ダメ元で「モリヤ食品」の面接を受ける。

そこで出会った青年社長・ヤンはなぜか笑美に惚れ込んでおり、そんなヤンに心奪われた笑美もその企業への就職を決意する。

しかし研修の場で笑美が見たのは、奇声を上げながら這い回る人々の姿だった―。

一方その頃、笑美を心配した兄の陽太は相談のためとある場所へと足を運ぶ。

そこは心霊案件を専門とする佐々木事務所だった。

果たして笑美を巡る運命はいかに―?

目次

心霊現象からカルト教団まで登場する新しいホラー小説

主人公の島本笑美は生まれつき生きている人間と死んでいる人間の区別がつきません。

その設定だけでもなんとなく不気味な雰囲気が漂ってきます。

ですがただ「幽霊が見える」という怖い話にとどまらず、島本の就職活動をきっかけに物語は大きく進みます。

前半はホラー小説として十分に楽しめますが、後半にかけて宗教学や民俗学もふまえた考察を交えつつスケールがどんどん大きくなっていきます。

前半の不気味で恐ろしい出来事の数々が最後には回収されていく様子は、まるでミステリー小説のような読み応えがありました。

ホラーには幽霊が引き起こす心霊現象を描くものと、人間の恐ろしい心理を描くものがあります。

どちらが怖いと感じるかは人それぞれですが、今作ではそのどちらも楽しめるような内容です。

すべての説明がきちんとされるわけではなく、読み終わったあとも「あれは何だったのだろう…」と一人で考えてゾッとしてしまうことでしょう。

今作を語る上で欠かせないカルト教団の存在は非常に不気味ですが、不気味だ、気持ち悪い、と思う自分の感覚は果たして正しいのか、自分が信じている宗教にはおかしな点がないと言えるのか、足元が揺らぐような衝撃を覚えることもできました。

これまでにないホラー小説を読みたい方におすすめです。

個性豊かなキャラクターたちにも注目

今作には個性豊かなさまざまなキャラクターが登場します。

主人公の島本笑美はただ幽霊が見える体質、就活に苦戦する若者として描かれているわけではなく、現在の島本を構成する過去のさまざまな出来事についてもきちんと掘り下げられています。

さらにそんな島本を気に入りカルト教団に招き入れるヤンの正体は何なのか、島本に近づいた本当の目的は何なのかが気になって彼の唱える呪文、儀式の数々などから目が離せません。

さらに今作ではカルト教団を追う心霊現象専門の探偵、佐々木るみとその助手の青山が活躍します。

このコンビがカルト教団の謎を解き明かそうと奮闘しますが、その方法も理論的、科学的なものではなくオカルト的な要素もあったり、佐々木にも壮絶な過去が隠されていたり、普通の探偵ものとは違ったおもしろさを楽しめることでしょう。

佐々木と青山のコンビの人気も高く、早速続編を期待する声が多く寄せられています。

今作「異端の祝祭」は、同じ作者芦花公園氏のデビュー作「ほねがらみ」と同じ世界線の物語です。

「ほねがらみ」に登場したキャラクターも登場するので、前作を読んでいた方にとっては嬉しい演出と言えるでしょう。

もちろん前作を読んでいなくても十分に楽しめます。

話題のカクヨム作家の新作!

芦花氏は「カクヨム」という小説投稿サイトで話題になった作家さんです。

ホラー作品を多く投稿し、無名でありながら口コミで徐々にその実力が認められていきました。

ホラー作家にSNSで紹介されたことをきっかけに「ほねがらみ」が話題となり、そこから小説家デビューが決まったという経歴を持っています。

新感覚のホラー小説だと話題を集めた前作ですが、今作「異端の祝祭」も心霊現象から人間の恐ろしさ、さらにその土地に根付く異常な信仰など、さまざまな要素が絡み合う内容となっています。

登場人物が多く舞台設定もかなり奇抜なため読み進めるのに抵抗を感じる方も多いかもしれませんが、すんなりと読みやすい文章で構成されていますよ。

その分淡々と語られる不気味な現象が恐ろしく、派手なホラー映画とは違ったじわじわにじり寄るような怖さを楽しめるでしょう。

これまでにさまざまなホラー小説を読んできた方にこそ手に取ってみてもらいたい一冊です。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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