逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』- 復讐と葛藤から見出した真の敵とは

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この記事を書いた人

悠木四季
ただのミステリオタク
年間300冊くらい読書するミステリ好き人間。

本を読み、本に人生を食われながら、今日もどうにか人間の形を保っている。

もはや読書は趣味ではなく、生活習慣であり、呼吸であり、呪いである。

幸せだね。

1940年代、ソ連とドイツが血みどろの戦いを日夜繰り広げていた時代。

モスクワ近郊の農村が、突如ドイツ兵に襲撃される。

たった一人生き残った少女セラフィマは、強姦寸前のところを赤軍の女兵士イリーナに救われた。

「戦いたいか、死にたいか」

との問いにセラフィマは、復讐を誓い、戦いに生きることを決意する。

血反吐を吐くような訓練を経て、凄腕の狙撃兵になったセラフィマ。

次々に戦果を挙げ、殺した数を誇る殺戮マシーンへと変貌していく。

みるみる失われてゆく人間性。その中で芽生えていくひとつの疑問。

「何のために戦うのか」

国のため?復讐のため?

それとも、何かを守るため?

やがてセラフィマは、自分にとっての真の敵を見出す。

目次

圧倒的な戦闘描写!まるで映像のようなリアリティ

『同志少女よ、敵を撃て』は、第二次世界大戦を舞台とした物語です。

戦争モノということで、戦闘シーンが多く登場します。

そのどれもが秀逸!

文字を追っているにもかかわらず、まるで映画やアニメを見ているかのようなリアリティがあります。

飛び交う銃弾、湯気がもうもうと立ち上る血の海、兵士たちの苦悶の表情。

それらが映像となって、頭に浮かんできます。そのくらい描写が丁寧で、真に迫っているのです。

手に汗を握るとは、まさにこのこと。読み手は序盤から、グイグイとこの世界へ引き込まれていきます。

特にリアルなのは、狙撃の描写。

狙撃ですから、勝負は一瞬。ゼロコンマ何秒という世界で、生か死かが決まります。

当然、潜伏場所が先にバレた方が負け。だから行動中は、常に死と隣り合わせ。

この緊迫感が、行間からジリジリと迫ってきます。

まるで心臓を掴まれているかのように緊張し、つい息を殺しながら読んでしまう人も多いのではないでしょうか。

その中でも、市街地スターリングラードでの攻防は圧巻!

戦場という異常なフィールドのスリルや生々しさを、圧倒的な臨場感をもって追体験させてくれます。

戦場で失われる人間性と、芽生える葛藤

『同志少女よ、敵を撃て』は、戦争モノではありますが、ドンパチやって終わりという単純な物語ではありません。

復讐や友情、性差別といった、様々な要素が絡んできます。深く重い人間ドラマなのです。

その中でもとりわけ見どころと言えるのは、主人公セラフィマの葛藤です。

セラフィマは最初、農村で暮らす心優しい少女でした。

しかし村が襲撃され、母親も村人も目の前で死に、自らも殺されそうになり……。

その窮地において、生き延びるために選んだ道が「戦い」でした。

戦うしかないじゃないですか。

あどけない少女でも、この状況で生き抜くには、心を殺し、人を殺すしかない。

この選択があまりに痛々しく、だからこそ読み手は物語に没頭し、ページをめくる手を止められなくなります。

救いを求めるかのように。

そしてセラフィマは訓練学校に入るわけですが、そこでも悲しみのドラマが繰り広げられます。

同士はみんな少女で、それぞれが過酷な経験やドラマを持っていました。

しかし壮絶な訓練に耐えきれず、一人、また一人と脱落していきます。

そして残った仲間たちの命も、実戦では当然のように、次々に失われていく……。

この展開は本当に胸が痛み、やるせない気持ちになります。

どうしてこんな愛らしい少女たちが、これほどまでに残酷な運命を背負わなければならないのだろうか、と。

この戦場という異常なフィールドの中で、セラフィマの心はどんどん凍りついていきます。

命の重みを忘れ、殺戮するだけの怪物に変わっていくのです。

でも、人としての心が完全になくなったわけではありません。だからこそ、新たな葛藤が生まれます。

自分は本当は、何と戦うべきなのか。真の敵とは、一体何なのか。

その答えは、ラストで明らかになります。

読み手をあっと言わせるほどの、衝撃的な結末です。

しかもその結末は読み手に、あるテーマを投げつけてきます。この物語の真髄とも言える問いかけです。

セラフィマの出した答え、そして本書の真のテーマ。

どちらも、ぜひご自分の目で確かめてみてください。

渾身の力作!壮大なカタルシスをぜひ感じてほしい

戦場のリアルな描写に加え、これでもかこれでもかと胸をえぐり続けてくるストーリー展開。

読者に息をつかせる暇なく読ませていく、非常にパワーのある作品と言えます。

驚くべきことに『同志少女よ、敵を撃て』は、逢坂冬馬さんのデビュー作です。

第一作目で、これですよ。末恐ろしいものを感じますね。

さらにこの作品、第11回アガサ・クリスティー賞大賞に選ばれました。

しかも選考委員が全員満点をつけたという、前代未聞の受賞!

その後、第166回直木賞の候補作にも選出され、書店では飛ぶように売れ、あっという間に発行部数は7万2000部に!

この異例の評価と評判が、『同志少女よ、敵を撃て』がいかに傑作であるかを物語っていますね。

それでいて、決して堅苦しくはなく、読みやすい。

テーマが重くても文章のテンポは良く、本当にアニメ映画を見ているような感覚で一気に楽しめます。

外国の史実が絡んできますが、予備知識がなくてもスムーズに読めますので、ご安心を。

そしてラストで繰り広げられる驚愕の展開が、また秀逸です。序盤から随所に散りばめられていた伏線が、一気に回収されるのです。

この鮮やかさは、戦争モノでありながらも、ミステリー小説を思わせます。

「なるほど、そうだったのか!」と読者をうならせてくれるのです。

本書が、長編推理小説を対象とするアガサ・クリスティー賞を受賞したのも、この颯爽とした終盤展開ゆえでしょう。

この渾身の力作『同志少女よ、敵を撃て』、ぜひ手に取り、壮大なカタルシスを感じてください。

Amazonの聴く読書『Audible(オーディブル)』で聴ける神ミステリ10選

① 綾辻行人 『Another
② 有栖川有栖『月光ゲーム
③ 森博嗣『すべてがFになる
④ 麻耶雄嵩『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件
⑤ 今村昌弘『屍人荘の殺人
⑥ 殊能将之 『ハサミ男
⑦ 青崎有吾 『体育館の殺人
⑧ 知念実希人 『硝子の塔の殺人
⑨ 夕木春央『方舟
⑩ アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった

悠木四季

あの傑作ミステリを「聴ける」という奇跡!

私も利用しているけれど、「読む」とはまた違った良さがある。

何より、寝ながら聴いたり、散歩中に聴いたりと便利すぎるのだ。

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悠木四季
ただのミステリオタク
年間300冊くらい読書するミステリ好き人間。

本を読み、本に人生を食われながら、今日もどうにか人間の形を保っている。

もはや読書は趣味ではなく、生活習慣であり、呼吸であり、呪いである。

幸せだね。

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