高野結史『バスカヴィル館の殺人』- 古典名作になぞらえた殺人ゲーム!芯の探偵役と被害者役は誰?

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富豪たちが開催するゲーム「リアル・マーダー・ミステリー」。

名作ミステリーになぞらえたシナリオを用意させておき、犯人役や被害者役といったキャスト、舞台も揃え、自分が探偵役となって推理を楽しむ「探偵遊戯」だ。

ただし、ゲーム内で起こる殺人は本物。

犯人役は実際に人を殺さねばならず、被害者役は実際に殺される。

リアルな人殺しが行われるからこそゲームは白熱し、探偵役の富豪はリアルな緊迫感や達成感を味わえるのだ。

今回の舞台は、孤島の深い森に建つ洋館バスカヴィル。

雰囲気たっぷりな中、古典ミステリーをモデルとした連続殺人事件が起こっていく。

犯人役となった凛子は、やむなくシナリオ通りに犯人として行動するが、こんな役回りに嫌気がさしていた。

とはいえシナリオを無視してゲームを破綻させた場合、処分されてしまう。

そこで、探偵役に何とか事件を解決してもらおうとするが―。

目次

三つの観点で楽しめる

『バスカヴィル館の殺人』は、『奇岩館の殺人』の続編です。

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前作と同じく、ミステリー好きの富豪のために、名作ミステリーになぞらえた殺人事件を起こして謎を解いてもらう「リアル・マーダー・ミステリー」が題材となっています。

もちろん内容はパワーアップ!

たとえば今作では、世界的に有名な巨匠のミステリーがモデルとなっています。

具体的には、コナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』、アガサ・クリスティの『ナイルに死す』、エラリー・クイーンの『Xの悲劇』などなど。

いずれも古典ミステリーの超名作ですね。

これらが「リアル・マーダー・ミステリー」としてアレンジを加えつつ再現されるのですから、ミステリー好きにはたまりません。

もちろんゲームとはいえ本当に人が殺されるので、スリル満点!

そしてこのゲームの特徴として、「参加者たちには、誰が何の役なのか知らされない」という不文律があります。

一部の運営スタッフ以外、誰が探偵役で誰が被害者役なのかわからないのです。

参加者にしてみれば、もしかしたら自分が被害者役で殺されるかもしれず、ハラハラドキドキ!

さらにこのゲーム、運営側にとってもハラハラの連続です。

運営側は、富豪に大金で雇われている以上、ゲームを絶対にシナリオ通りに進めなければなりません。

万が一途中で問題が起こってシナリオが狂ったら、大変な責任問題なのです。

前作ではまさにその様子が描かれていたのですが、今作も同様で、途中からシナリオが様々な理由で狂いまくります。

しかも前作以上の狂いっぷりで、運営側の焦りっぷりも前作以上!

つまり読者はこの物語を、古典名作のオマージュと、参加者側のスリルと、運営側の苦労という、三つの観点で楽しめるわけですね。

それぞれに緊迫感があって、目が離せません!

慌てふためく運営が面白い

三つの観点のうち、とりわけ注目していただきたいのは運営側!

このパートには、ミステリーを作り出す裏方としての苦労に加え、雇われている者としての苦労も赤裸々に描かれていて、見どころが多いのです。

たとえば、ゲームの舞台準備。

実際に人を殺すゲームですから、シナリオやキャストを真っ当な方法で用意できるはずがなく、ヤバい橋を渡りながら準備するのですが、それが本当に大変そうで。

「うわー、こんな裏工作までするのか」と、可哀想になってきます。

なのにせっかく舞台を整えてスタートしても、キャストが好き勝手に動くものだから、シナリオがどんどん崩れていくのですよね。

予定とは異なる人物が殺されたり、焼死のはずが刺殺されていたりで、そのたびに翻弄される運営チーム。

なんせゲームを破綻させたら、クライアントの逆鱗に触れて、文字通り首が飛びかねません。

何とかシナリオを軌道修正しようと、慌てふためきながら手を尽くす様は、気の毒ですけれど、ある意味コミカル(笑)

しかも当のクライアントが間抜けな行動をとって台無しにすることも多々あるものだがら、読者としては運営側に同情し、「オマエ何してくれるんだよ!」と文句を言いたくなることも…。

もちろん運営は、雇われている身なので、クライアントに文句なんて言えません。

リーマンの悲しさですね…。

このように運営側のパートでは、クライアントとキャストとの間に挟まれて対応に追われる様子が描かれています。

その慌ただしさはエンターテイメントとして面白いのはもちろん、一種の企業小説としての魅力にも溢れています。

果たして今回の「リアル・マーダー・ミステリー」は無事に成功するのか。

終盤には、まさかの人物の正体や黒幕の存在が明らかになり、一層カオスな状況を楽しめます!

本格ミステリー×企業小説

『バスカヴィル館の殺人』の作者・高野結史さんは、第19回『このミステリーがすごい!』で隠し玉を受賞し、デビューした作家さんです。

ミステリーに社会問題を絡めた作風で注目されており、デビュー作『臨床法医学者・真壁天 秘密基地の首吊り死体』も、児童虐待が取り扱われていて、ミステリーとしても社会問題系としても読みごたえのある作品でした。

そして今作『バスカヴィル館の殺人』も、やはりミステリー×社会派と言える作品でしたね。

古典の名作を「リアル・マーダー・ミステリー」と融合させつつ、運営側のブラックな労働環境が描かれていました。

パワハラ上司からの理不尽な命令や、扱いづらい新人との軋轢、ご機嫌取りなどもあり、読みながら「うんうん、わかる!」と苦労に共感する読者も多いのでは?

もちろんミステリーとしての面白みもたっぷりで、個人的には犯人役の凛子の行動に興味津々でした。

これ以上殺したくないから探偵を頼ろうとしたり、「もしかして自分は実は被害者役で、殺されてしまうのでは?」と怯えたりで、もう先の展開が気になって気になって。

だからこそ、終盤で明かされた真相にはビックリです。

前作との意外な繋がりも見えて、最後の最後まで目が釘付け状態!

前作を読んだ方はもちろん、古典名作を愛する方や、日々にちょっと疲れたリーマンの方も、良かったらぜひ読んでみてくださいね。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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