完全犯罪請負人の黒羽は、ビルの屋上から何者かに突き落とされた。
瀕死の重体で病院に運ばれたが、治療中に体から魂が抜け出てしまう。
霊体としてこの世を彷徨うことになった黒羽は、自分を突き落とした犯人を捜そうとするが、この体ではままならない。
そんな時、幽霊を見ることができる少女・音葉と出会う。
音葉は両親を殺されており、犯人を捜して復讐したいと願っていた。
幽霊だが完全犯罪請負人としてのノウハウを持つ自分と、優れた霊感と行動力を持つ音葉が手を組めば、双方の犯人を見つけることができるかもしれない。
かくて二人は協力体制に入り、共に仇討ちを目指すことに。
ただし音葉によると、霊体がこの世に留まることができるのは七日間だけらしい。
果たして期限内に、犯人を見つけ出すことができるのか?
無力に見えて最強のバディ
『少女には向かない完全犯罪』は、幽霊と小学生の女の子がバディを組んで事件に挑むという、特殊設定ミステリーです。
幽霊と少女って、なんとなく無力というか、か弱いイメージがありますよね。
でもこの作品では違っていて、めちゃめちゃパワフルです!
まず幽霊の黒羽は、完全犯罪請負人。
詐欺グループや悪徳不動産会社を逮捕や破産に追い込むなど、毒をもって毒を制してきた仕事人です。
幽霊の身なので物理的な行動ができない(物も人もスカッと通り抜けてしまう)のですが、犯罪における知識が豊富で、推理力もあります。
一方、少女の名前は音葉。
小学生なので社会的な制限は多いものの、警部補の叔母を持つ影響か、好奇心、洞察力、行動力がバツグン。
この二人が手を組めば、黒羽が舵を取り、音葉が子供としての立場を最大限に利用して動くことで、的確で狡猾な調査が可能になります。
そのため無力どころか、弱点を互いに補強した無敵のバディと言えます。
一人一人は弱くても、力を合わせることで劇的にパワーアップする展開って、胸アツですよね!
実際にこのバディは、次々に事件を解決していきます。
どんな事件に、どんな工夫を凝らして挑んでいくのか。
復讐を目論む二人の鼻息の粗さも相まって、弾むようにテンポの良い一種の冒険活劇を楽しめます。
どんどん出てくる新たな謎
謎解きの難しさも、『少女には向かない完全犯罪』の魅力のひとつです。
というのも、この物語では畳みかけるように次々に謎が提示されるのです。
たとえば音葉の両親殺害事件。
雪の日だったのですが、現場には両親の足跡しか残っておらず、犯人がいた形跡は見当たりませんでした。
いわゆる雪の密室ですね。
さらに、なぜか天井の梁に父親の足跡が残っていたという、わけのわからない状況。
父親と母親の殺害方法にもズレや相違があり、とにかく奇妙です。
黒羽と音葉は、それらの謎をひとつずつ着実に解いていくのですが、解けたように思えてもすぐにひっくり返されたり、次の問題が浮上してきたりで、なかなか完全解決に至りません。
もうホント、あっちこっちからどんどん新たな謎が出続けるのですよね。
まるで無限に広がっていく迷路のようで、それが読者を翻弄しつつ、夢中にさせてくれます。
それでもなんとか中盤で犯人に辿り着くのですが、それすらも前座に過ぎないというか、後半では黒羽と音葉はもっと大きな闇に飲み込まれていきます。
「これ、本当に解決するの?」と空恐ろしくなるくらい。
でも謎が多いからこそ、終盤の解決編は最高です!
複数のベクトルからの多重解決が描かれ、それぞれの筋の通った推理に、読者は幾度も唸らされます。
序盤で登場した謎が再び絡んできたり、意外な部分に伏線があったことに気づかされたりするのも、ミステリー好きにはたまらない快感でしょう。
そしてその先にあるラストシーンがまた素晴らしい!
タイトルの意味も回収され、思いのほか爽やかな感動を味わえます。
特殊で本格でジュブナイルなミステリー
設定にビックリ、謎にビックリ、解にビックリと、風味の異なるビックリを何度も味わえる。
『少女には向かない完全犯罪』は、そういう作品だと思います。
作者の方丈 貴恵さんは、もともと斬新で多種多様な特殊設定を盛り込むことで知られる作家さんですが、いやはや今回もやってくれましたね。
幽霊と少女がタッグを組んで、こんなにも骨太で本格的な謎解きに挑むなんて、誰が予想できたでしょうか。
しかも謎の量がハンパないですからね。
枝葉のように広がり続ける謎は、日頃から本格ミステリーを読み漁っている人でも手ごわく、苦戦させられるのではないかと思います。
それでいて読み口は、とってもライト。
主人公二人の掛け合いが、冗談交じりの軽妙なノリでサクサクと進んでいくのですよね。
トリックの小難しい解説も、二人の会話を追っていくことで読者の頭にはすんなりと入ってきます。
また謎解き以外に日常会話も随所に出てくるので、そういうシーンではホッと肩の力を抜きながら読めますよ。
黒羽が音葉に料理を教えてあげるシーンもあったりして、親密度がだんだんと上がっていく様子にホッコリできるのもいいですね。
そういう意味では、本書にはジュブナイル小説としての側面もあると思います。
このように『少女には向かない完全犯罪』は、様々な魅力が詰まった作品です。
特殊設定が好きな方、本格ミステリー、とりわけ多重解決が好きな方、爽やかジュブナイルな展開が好きな方などなど、ぜひ多くの方に読んでいただきたいです。