呉勝浩『法廷占拠 爆弾2』- スズキタゴサク再び!籠城犯と警察との三つ巴の騙し合い

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世間を震撼させた連続爆破事件。

九十八名の死者を出し、重軽傷者五百名以上という未曽有の事件における五回目の公判が、東京地裁で開かれた。

報道関係者や遺族たちが見守る中、犯人として逮捕されたスズキタゴサクは、相も変わらず飄々としており、ふざけているとしか思えない態度。

そんな中、事件は起こった。

遺族席で唐突に一人の青年が立ち上がり、手にした銃を発砲し、法廷を占拠したのだ。

青年の名は、柴咲奏多。

爆破事件で父親を亡くしたという彼の目的は、死刑囚たちの刑をただちに執行すること。

「期限内に執行しろ。さもなくば、人質たちに代わりに罪を償ってもらう」

声高に宣言する柴咲に対し、警視庁の捜査一課・高東が交渉にあたる。

高東は無事に人質を解放できるのか。

そしてこんな状況でも狼狽することなく、薄ら笑いを浮かべているスズキタゴサクの思惑は?

目次

拘束されつつ相変わらずのスズキタゴサク

『法廷占拠 爆弾2』は、2022年に刊行された『爆弾』の続編です。

『爆弾』は都内数十箇所で起こった連続爆破事件を描いたミステリーで、今作はその1年後、爆弾犯スズキタゴサクを裁く法廷が舞台です。

スズキタゴサクは、すっとぼけた感じの冴えない中年男ですが、中身はなかなかどうして侮れず、腹の奥底で何を考えているのかわからない怖さがあります。

前作での取り調べ中も、ベラベラと調子よく喋りつつも肝心なところはのらりくらりとかわしており、事件の凶悪さとは対照的な薄っぺらさに、逆に興味を持った読者も多かったのでは?

今作では犯人として暗躍するのはテロリストの柴咲であり、被告人として法廷に立つスズキタゴサクは表立って動きにくい状況です。

しかしそこは流石のスズキタゴサク、相変わらずの人を食ったような態度が薄気味悪く、何かをしでかしそうなムードでいっぱい。

腹の内が見えないからこそ、今作では前作以上に手に汗握る展開を楽しめます。

まず目を引くのは、序盤でいきなり起こる法廷占拠。

柴咲と協力者の新井が人質を取り、「死刑が確定している囚人たちに、ただちに執行すること」を要求してきます。

当然すぐに死刑にするのは無理なので、人質たちは代わりに散々な目に遭わされますし、しかもその様子は動画サイトで生配信されます。

あわれ警察は、視聴者の目に晒されながら、なんとしてでも人質救出と犯人逮捕を遂行しなければならない状況に。

人質にとっても警察にとってもピンチな展開が、読者をもハラハラさせます。

警察側は新旧メンバーこぞって登場

このピンチに警察がどう出るのかというと、まずは柴咲との交渉。

捜査一課の高東が中心となって進めるのですが、柴咲は毒親や社会について語るばかりなので、話になりません。

どうも柴咲には交渉に乗る気がなさそうなので、目的が何か別のところにあるのかな、とさえ思えてきます。

そしてそれをノホホンと傍観しているスズキタゴサクが絶妙に厭らしい!

読んでいてイラッとするのですが、それがスズキタゴサクの趣味であり策なので、「しまった、またイラッとさせられた」と、逆に脱帽したくなります(苦笑)

さてこの状況に警察側もさすがに黙っておれず、次々に人材を投入してきます。

まずは前作『爆弾』にも登場した類家で、危険なほどにキレキレな頭脳の持ち主です。

そして類家を「先輩」と仰ぐ部下・猫屋。

続いて、肉体派のラガーさんこと猿橋と、爆弾事件で片足を失った矢吹。この二人も前作から続いての登場ですね。

証人席には倖田や伊勢もいて、彼らも続投メンバー。

このように警察側は、高東を筆頭に新旧メンバーこぞって引き連れて、柴咲と対峙します。

前作から読んでいる方には、かなりの胸熱展開!

「待ってました!」と言わんばかりに、テンションが上がることでしょう。

やがて物語は、特殊部隊による制圧や人質救出など、どんどん激しくなっていきます。

そしてクライマックスでは、いよいよスズキタゴサクも動くことに!

激しさと凄まじさに、ラストが近づくにつれて一気読み不可避になります。

ムカつきながらも没頭させられる大傑作

やられました!

またしてもスズキタゴサクにやられてしまいました!

いやー、一体なんなのでしょう、極めて間抜けな言動をしているのに、周囲を操って破滅へと追いやる、あの気色悪いパワーは。

『法廷占拠 爆弾2』を読んだ方は、皆すべからくスズキタゴサクの手中に陥り、愕然とすると思います。

これは、そういう作品です。

思い返せば前作『爆弾』でも、警察はおろか読者までスズキタゴサクに翻弄されました。

舌を巻くしかないほどの見事な仕掛けの数々が話題となり、『爆弾』は日本最大級のミステリーランキングで2冠に輝くという偉業を成し遂げたほど。

そして今作『法廷占拠 爆弾2』は、前作を上回るほど圧巻の一冊です。

法廷の占拠+人質への暴力配信というショッキングな展開といい、犯人VS警察の緊迫した頭脳戦といい、読みながら冷や汗が止まらないレベル。

そしてその裏側に、間抜け面でチョコーンと佇んでいる、我らが憎きスズキタゴサク!

コイツの存在が気持ち悪すぎて厭すぎて、読者は始終頭を支配されながら読むことになります。

支配というか、汚染?

もうね、頭から離れないのですよ。事件が起こっている間、ずっとずっとそこにいて、すっとぼけた態度でニマニマしていて。

心の奥底の一番デリケートな部分を汚い手でザラザラされているような気分になります。

今も聞こえてくるようですよ、「あらら。また、あなたの負けだ」と。

とにかくこの最悪なキーマン・スズキタゴサクは、本書の最後でとんでもないことをやらかします。

ヤバいです、これは本当にマズいです。

そしてこれにより、いずれ続編が出版されることが、ほぼ確定的になりました。

今後の展開が気になって仕方がないので、作者の呉勝浩さんには、ぜひとも執筆を頑張っていただきたいですね。

続編が刊行されるまでに、皆さんもぜひ前作『爆弾』から通して読んでみてください。

必ず、スズキタゴサクにムカつきつつも、没頭させられ、魅せられます!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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