アリサは、自律汎用AIを有するアンドロイド。
外見は美しい二十代女性で、高感度圧電センサーによって人間らしい反射的な動きができる。
センサーカメラや集音マイクも搭載されているため、決定的瞬間を逃さず、些細な物音でも全て拾う。
そんな高性能なアリサの役割は、怪異調査。
様々な心霊スポットや廃村に行き、起こった現象が怪異によるものかどうかを分析するのだ。
生身の人間であれば恐怖を感じる場所でも、機械でできたアリサなら怖くはない。
もちろん呪いを受けたり憑りつかれたりする心配もない。
今日もアリサは調査に赴き、数々のデータを持ち帰って来る。
そこには一体何が映っているのか。
人間の感覚と認知を超えた闇を探り出す、新感覚ホラー!
引き返さず怪異を全見せ
『対怪異アンドロイド開発研究室』は、高性能アンドロイドのアリサが幾多の怪奇現象を探っていくホラー・エンターテイメントです。
アリサを開発したのは、天才科学者の白川教授。
近城大学で対怪異アンドロイド開発研究室を開き、噂のスポットにアリサを派遣しては、データ収集をさせています。
見どころは、なんといってもアリサの冷静さ。
アンドロイドのアリサには恐怖という感情がないので、どんなに恐ろしい場所にも平然と入り込んでいきます。
人間なら「これ以上進むとヤバイ」と引き返すような時も、アリサはおかまいなしに進みます。
一般的なホラー小説では、登場人物が引き返すと、読者はその先で何が起こるのかわからないままになるのですが、アリサなら先の展開を見せてくれるのです。
これはもう、ホラー好きには嬉しすぎますね!
もちろん先に待ち構えている展開は、怖さ満点。
実際アリサが持ち帰った映像データを、研究室で学生が見た時には、絶叫!
読者としても、心臓バクバク、冷や汗ダラダラです。
またアリサは、奇妙な現象が起こっている時に、それが怪奇現象であるかどうかをパーセンテージで示します。
「怪異がいる確率、70%。…、…、90%」という感じで具体的な数字で示してくるので、その数字が上がるたびにこちらはギクギク。
90%を超えたら、それはもう絶対に怪異ですよね、疑う余地はほぼありませんよね?
「もしかしたらヤラセかも?」という淡い希望を、アリサの数字は非情にも打ち砕いてくるのです。
このように『対怪異アンドロイド開発研究室』は、アンドロイドの目を通しているからこそリアルな恐怖を味わえるホラー小説です。
従来のホラーとは一味違う感覚で楽しめます。
機械だけど個性的でユーモラス
アリサのキャラクター性も、『対怪異アンドロイド開発研究室』の見どころのひとつです。
アンドロイドのアリサには、感情や性格が基本的にはないのですが、その無機質なところが逆に個性的だったりするのです。
見た目は美女なので、人間だと勘違いした男性からアプローチを受けることもあるのですが、アリサは全て淡々と受け流しており、そのクールさが面白い!
「お腹空かない?」的なことを訊かれれば、
「胃袋なら空いています」(実際には、胃袋に該当する器官がない)
と返したり。
「もしかしてダイエット中?」と訊かれれば、
「軽量化は大きな課題です」(機械なので重量が130kgもある)
と返したり。
こういったアンドロイドジョークがユーモラスで、思わず吹き出してしまうこと多々。
また、目の前で人が怪異に苦しめられていても、アリサは「経緯を記録します」と助けに入らなかったりするのですが、そういう血の通ってなさそうなところも興味深いです。
それでいて本当に危険になった時には、怪異にアッパーやストレートをお見舞いしちゃうので、そのパワフルさにも痺れます!
このようにアリサは、アンドロイドであるがゆえに面白くて魅力的なキャラクターなのです。
そして後半に入ると、「有紗」という名前が登場し、物語はちょっと違った雰囲気になってきます。
「有紗」は白川教授の妹で、なんと失踪中とのこと。
「有紗」と「アリサ」に何か関係はあるのか、そもそも白川教授が怪異調査をする目的は何なのか。
前半とは打って変わって深みのあるドラマが始まるので、読者はますますもって目が離せなくなります。
怖くて楽しい、一風変わったホラー小説
『対怪異アンドロイド開発研究室』は、饗庭淵さんが小説投稿サイト「カクヨム」で連載していた作品です。
第8回カクヨムWeb小説コンテストのホラー部門で、特別賞受賞作品として選ばれ、晴れて書籍化されました。
アンドロイドが怪異調査をするという斬新さはもちろん、怪奇現象に真っ向から飛び込んでいくスリル、ウイットに富んだアンドロイドジョークなど、見どころは満載!
実は饗庭淵さんは、作家としてだけでなくゲームクリエイターやイラストレーターとしても活躍されており、そこで磨かれたセンスが本書には反映されているのだと思います。
とにかく臨場感や迫力、テンポの良さが秀逸で、それこそゲームのように読み手をグイグイ引き付け、ワクワクさせてくれますよ。
また、主人公が無感動なアンドロイドだからと言って、決して無味乾燥な物語ではなく、むしろ人間味に溢れているところも魅力です。
たとえばアリサと一緒にしばしば調査現場に向かう女子大生・新島は、数々の恐怖体験に翻弄され、怯えたりおかしくなったりで、可哀想なくらい。
そして白川教授が「有紗」に向ける思いも、深くて複雑で、どこか歪んでいるところが人間らしいです。
これらはアンドロイドのアリサが中心になっているからこそ際立ち、読者の胸に沁み入ってくるのだと思います。
ということで本書は、一風変わったホラーを読みたい方におすすめの一冊です。
怖さの中に笑える要素もたっぷりなので、怖すぎるホラーが苦手な方にもおすすめですよ!