紺野天龍『シンデレラ城の殺人』- 前代未聞の王子様殺し。その容疑者は、シンデレラ!?

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美しい容姿を持つシンデレラはある日、怪しい魔法使いにガラスの靴を渡されながら言葉巧みに誘われ、王城で開かれる舞踏会に参加することになった。

お城に到着し、王子様の誕生を祝うパーティーも兼ねたその舞踏会でシンデレラは、さっそくオリバー王子の目に止まります。

ダンスに誘われ、「ガラスの靴では踊りにくかろう」と、彼女は王子様から借りた靴で共にダンスを踊ることに。

その後、ガラスの靴を返してもらうために2人は王子様の私室へ向かいました。

しかし王子様が部屋の奥に行ったきり長い間帰ってきません。

心配になったシンデレラが様子を見にいくと、そこには王子様の死体が横たわっていたのです。

さらに悪いことに、騒ぎを聞きつけてやってきた警備兵によってシンデレラは現行犯で捕捕らえられてしまいました。

王子様殺害の嫌疑により臨時裁判にかけられてしまうシンデレラ。

無実の罪を晴らすため、シンデレラは王子様殺人事件の真犯人を暴く戦いに挑む!

目次

童話とは違う「シンデレラ」

本書ではシンデレラ自身が語り手となって物語を進めていきます。

実の父を早くに亡くし、2人の意地悪な姉と義母と生活を共にしているのですが、そこからが童話とは違ってくるのです。

童話に聞くシンデレラ像とは少し違い、2人の姉や義母の嫌がらせにも毅然とした態度で接するシンデレラ。

冷たい扱いに耐え忍ぶどころか飄々とそれらをかわして、屁理屈としか言えないような意見で応酬する姿が面白く、逞しいシンデレラが本書には見られます。

嫌がらせをしようとしてくる姉たちを淡々といなしながら、怖がることもなく親しげに話しかけすらするシンデレラ。

姉たちも舞踏会に着ていくドレスをシンデレラから褒められると頬を赤らめる始末で、ひょっとしてこのシンデレラは姉とうまくやっているのか?と思ってしまいます。

舞踏会にも興味がないと言っていたり、少しずつ私たちの知っているシンデレラではなくなってくるのです。

極め付けは、魔法使いアムリスからの舞踏会への誘いに乗るシンデレラですが、その理由は「美しい姉がボンクラ貴族に捕まりでもしたら」という心配から。

このように最初は童話「シンデレラ」に合わせながらも、姉たちとの関係性や、シンデレラ本人の性格など、別バージョンの彼女を楽しみながら読むことができるでしょう。

シンデレラが挑むリーガルミステリー

本書のもうひとつの見どころは、王子様殺害の容疑をかけられたシンデレラが身の潔白を示すために、自ら真犯人を推理するというリーガルミステリー要素です。

王子の部屋で起きた殺人事件。

真犯人はどんな手口を使って誰にも気づかれることなく被害者を殺害し、警備の目をかいくぐって現場から逃げたのか。

現場状況から、シンデレラは理不尽に犯人と決めつけられてしまいます。

しかし自前の論理的思考とマシンガンのように繰り出される屁理屈で首の皮一枚持ち堪え、判決の猶予を勝ち取った彼女は疑わしい人物を呼び出し、彼らから手がかりを引き出していきます。

そして次々と明るみに出る新事実をその場で整理し論理的に事件を推理していくシンデレラの姿はここでも逞しく聡明です。

「シンデレラ」らしく、事件の鍵として「魔法」や「ガラスの靴」が登場したり、王家ならではの人間関係が事件の解決をより複雑にするなど、童話の世界観を残しつつ展開される法廷サスペンス劇場が本書を特別なミステリ小説にしています。

作中に登場する、王城屈指の裁き人と名高い裁定人のクロノアとの舌戦は特に見どころです。

冷静に、彼女が犯人であるという状況証拠を突きつけてくる彼にシンデレラが挑む様子を、読む側も必死になって事件を整理しながら見守ることになるでしょう。

ミステリ界に舞い降りたもう一人の「シンデレラ」

第23回電撃小説大賞に応募した「ウィアドの戦術師」、それを改題した「ゼロの戦術師」で2018年にデビューした紺野天龍さん。

最新作「シンデレラ城の殺人」は童話に出てくるシンデレラが、童話とは違うクセのあるヒロインとして登場します。

一見、意地悪な姉妹や義理の母、王城での舞踏会やイケメンの王子様など、人物や設定は童話と同じです。

しかし蓋を開けてみれば姉妹とはなんだかんだ仲良し、肝心の舞踏会にシンデレラが全く興味なし、などさまざまな点で童話との違いが現れてきます。

序盤は童話らしい朗らかな描写と王城での舞踏会の様子が鮮やかな文体で語られ、読者は物語の中にすっかり引き込まれるでしょう。

そして王子が死体で発見されたところで物語は急展開、いよいよ天龍ワールドに突入していきます。

突然王子様殺しの犯人として窮地に立たされるシンデレラ。

無実を証明するため彼女が自ら頭を働かせて事件を論理的に推理する場面がとても面白く、少ない手がかりで次への糸口を手繰り寄せようとする様子をハラハラと焦りながらも楽しんで読むことができます。

ひとつずつ明らかになっていく新事実と、同時にさらに深まっていく謎。

複雑に入り組んだ事件を個性あふれる登場人物たちと壮絶な舌戦を繰り広げながら究明する本書は童話と法廷サスペンスを掛け合わせた「愉快爽快難解ファンタジー」となっています。

王子様との素敵な出会い、恋の始まりの一夜のはずが、全く違う、しかしこちらも唯一無二のシンデレラストーリーが描かれた「シンデレラ城の殺人」。

ぜひご一読くださいませ!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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