ジェフリー・ディーヴァー『真夜中の密室』- どんな鍵でも開けて侵入する怪人との頭脳戦

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ニューヨークでは、深夜に「ロックスミス(開錠師)」と名乗る怪人が女性インフルエンサー宅に侵入するという事件が相次いでいた。

厳重に鍵をかけた部屋に入り、寝ていた女性に危害を加えることなく下着と包丁だけを盗んで去って行くのだ。

現場に残されたメッセージとSNSに投稿された写真から、ロックスミスが侵入したのは間違いない。

ロックスミスは一体どうやって開錠し、忍び込んでいるのか。

何が目的なのか、そしてその正体は?

四肢麻痺の元刑事リンカーン・ライムは、その天才的な頭脳からニューヨーク市警に捜査の助力を求められた。

しかし市長からの圧力で捜査から外された上、ライムに恨みを持つギャングから報復を受けることになってしまった。

この状況で、ライムはいかにロックスミスに対峙するのか。

<リンカーン・ライム>シリーズ、3年ぶりの新作が登場!

目次

捜査に協力したら逮捕される?

<リンカーン・ライム>シリーズは、首から下が麻痺した元刑事ライムが頭脳で事件に挑む、いわゆる安楽椅子探偵モノです。

ライムは体こそ動かせないものの、科学分析の天才であり、たびたびニューヨーク市警に頼られています。

そして介護士のサポートを得ながら、数々の事件を解決へと導いているのです。

このライムが今作『真夜中の密室』では、かつてないピンチに見舞われます!

まずはライムが検察側として証拠を挙げていた大物ギャングが裁判で無罪になり、ライムは立場が悪くなった上、野放しになったギャングに報復を仕掛けられます。

そして政争のもつれから市長にニューヨーク市警への捜査協力を禁止され、下手に手を貸そうものなら逮捕されかねない状況に。

さらにインターネット上で拡散されたデマで社会が混乱し、個人で捜査することも難しくなったのです。

このような状況を嘲笑うかのように、ニューヨークでは夜な夜な怪人ロックスミスが暗躍。

どのような鍵でも開けてしまえるロックスミスは、女性宅に忍び込んでは金品を盗むわけでもなく、乱暴を働くわけでもなく、侵入の痕跡だけをこれ見よがしに残して去って行きます。

実害はないものの「知らない間にプライベート空間を犯された」という被害者たちの精神的なダメージは相当なもの。

警察としても、どれほど厳重に施錠してもロックスミスは易々と侵入してくるので、打つ手がありません。

頼みの綱のライムは、捜査介入を禁止されている有様で……。

という、シリーズ15作目にして最高峰の悪状況!

過去のシリーズでもさんざん窮地に立たされてきたライムですが、今回は捜査そのものが許されていないので得意の知力を封じられたも同然。

ロックスミスの犯行をどう止めるか、どう勝負していくのか、ここが『真夜中の密室』の見どころとなります。

ウォッチメーカーを思わせる悪役

『真夜中の密室』では、カットバックにより複数の視点が切り替わりながら物語が進行していきます。

ロックスミスの視点もあり、これが読み手をかなり惹きつける展開となっています。

特に侵入方法を明かすシーンでは「なるほど、こんな手が!」と、犯罪なのについ感心させられてしまいます。

頭がいいのです、ロックスミスは。

いつの時代のミステリーでも、名探偵を手こずらせる悪党は頭脳明晰で狡猾で用意周到でたまらなく厄介ですが、たまらなく魅力的でもありますよね。

怪人ロックスミスもまさにその類の悪党であり、ライムの宿敵ウォッチメーカーに匹敵しうる存在だと言えます。

またロックスミスのパートでは彼が侵入を始めた理由も描かれており、これには幼少期に父親から受けた壮絶な仕打ちが関係してきます。

父親の憤りもわからなくはないですが、幼いロックスミスがあまりに辛そうで同情して有り余る内容です。

皮肉なことにその残酷さが、ロックスミスの悪役としての魅力をさらにアップさせています。

悲惨な過去があるからこそ、悪事がより一層輝いて見えるのですね。

このように主人公側も敵側も魅力的なので、両者の攻防は本気で手に汗握ります。

特にロックスミスの正体が明かされるところなんて、鳥肌モノ!

シリーズおなじみの逆転劇や大どんでん返しもあり、抜群の緊張感をもって最後まで楽しむことができます。

期待を全く裏切らないシリーズ第15作

『真夜中の密室』は、ジェフリー・ディーヴァー氏の<リンカーン・ライム>シリーズの15作目です。

ひとつの節目となる作品であり、しかも3年ぶりの新作ということで、首を長くして待っていた読者も多いと思います。

そして本書は期待を全く裏切ることのない大作です!

ライムのほぼ全身麻痺というすごいハンデに加え、捜査環境はシリーズ史上最悪で、さらにロックスミスという一筋縄ではいかない悪役が登場するのです。

しかもこの作品には、ロックスミス以外にも多くの犯罪者が出てきます。

恐喝、憎悪、デマと、ひとつひとつの規模は小さいながらも、多様な事件の数々が捜査を大いに撹乱してきます。

これだけ劣悪な環境の中、ライムは安定の頭脳明晰っぷりは健在。

めいいっぱい複雑化した事態をひとつひとつ解析し、見事に収束させていく様子はとてもカッコよく、読んでいてテンション上がりまくりです。

殺人事件こそ起こりませんが、侵入や情報操作など犯罪の手が非常に込んでおり、スリルは満点。

殺人無しでここまで読み手をハラハラさせてくれるのは、さすがのジェフリー・ディーヴァー氏ですね!

そして気になるのが、ライムの宿敵・ウォッチメーカーの存在。

今作では名前のみの登場ですが、将来的にロックスミスとの絡みもありそうで、今から期待でウズウズ!

次回作が早くも楽しみとなった、シリーズ15作目でした。

これまでシリーズを読んできた方なら絶対に読むべき一冊ですし、初めましての方でも十分に楽しめる内容です。

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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