新人刑事の祝依 然(いわい ぜん)は、先輩刑事の相田と共に、中年男性の死亡現場に来ていた。
遺体の首には縄がかけられており、縄はスチールラックに結ばれている。
一見して首吊り自殺であり、相田もそう判断したが、祝依にはこれが決して自殺ではなく、他殺だということがわかっていた。
なぜならその場に、亡くなった男性の霊が立っていたから。
祝依には、幽霊が見えるのだ。
それも、なぜだか「殺された人間の霊のみ」が。
しかしこのことを人に言っても一笑に付されるだけであり、他殺を証明することはできない。
困っていたところ、派手なメイクにゴスロリ服の美女がやって来た。
大学病院の解剖医・霧崎 真理だった。
彼女は見た目こそ奇抜だが非常に優秀で、遺体の状態から自殺と断定できないことを見抜き、解剖を申し出た。
果たして霧崎は、解剖によって他殺を証明できるのだろうか。
霊が見える刑事・祝依と凄腕の解剖医・霧崎が織り成す、今までになかった法医学ミステリー!
霊と解剖で事件にアプローチ
ミステリーにはよく解剖医が登場しますが、多くの場合は死亡推定時刻の割り出しをするくらいで、ありていに言えばチョイ役です。
しかしこの『解剖探偵』では、チョイ役どころか解剖こそが超重要!
解剖することで真相を暴き、事件を解決させていくという、全く新しいタイプの謎解きミステリーなのです。
主人公は、新米刑事の祝依 然。
霊を見る特殊能力を持っているものの、捜査にはイマイチ役に立ちません。
なぜなら見えるのは「殺された人の霊」だけであり、犯人やトリックまでは霊視できないからです。
遺体を見て、霊が見えれば他殺だし、見えなければ自殺や病死など他の死因だということがわかるだけです。
しかも自分の目に映っているものを他人に証明する方法がないため、上司にいくら「霊が見えるから、これは自殺じゃなく他殺です」と主張しても、信じてもらえません。
そこで頼りになるのが、もう一人の主人公・解剖医の霧崎 真理です。
息を呑むほどに美しい解剖医で、まだ若いのに解剖を既に百体以上こなした凄腕であり、こと遺体の洞察においては超一流。
厄介な死因でも、遺体を調べれば特定することが可能です。
祝依が霊的なアプローチで「自殺ではなく他殺」と見抜くのに対して、霧崎は解剖学的アプローチで見抜くわけですね。
この二人がバディを組んで、死の真相を暴いていくというのが、『解剖探偵』の大筋です。
冒頭に出てくる中年男性の遺体だけでなく、他にもたくさんの遺体が登場しますよ。
いずれも「自殺にしか見えない遺体」や「他殺にしか見えない遺体」なのですが、真実が全く逆であることを、霧崎が解剖によってことごとく証明していきます。
先入観や偽装による死因を、医学という圧倒的な証拠をもって完璧にひっくり返していく過程は、爽快感バツグン!
ラストまでワクワクしながら一気読みできるのです。
過去の傷を背負って生きる二人
『解剖探偵』には、霊や解剖から死因を探るというメインテーマ以外に、もうひとつ大きな見どころがあります。
主人公二人のキャラクター性や過去の謎です。
特に霧崎については深く描かれており、読者は読めば読むほど霧崎のことが好きになり、そのバックボーンを知りたくなってきます。
霧崎はまず、見た目からしてインパクトがすごいです。
死亡現場だというのに、黒とピンクでフリル多めなゴシックロリータ服で現れます。
顔は表情がわからないくらい派手なメイクで塗り固めてあり、髪は長い黒髪ですが、ピンク色のインナーカラーが入っています。
解剖医にはちょっと見えない格好ですよね。
でもこの姿には深く悲しい理由があって、実は彼女の顔や全身には、とても人には見せられないような〇○があるのです……。
あまりにショッキングな内容なので、この時点で読者には、霧崎の過去が気になって仕方なくなります。
また霧崎は性格も独特で、一見クールで不愛想な感じなのですが(メイクで表情が見えないから余計に)、実はかなりのコミュ障で、不愛想というより不器用なのですよね。
それでいて解剖の腕や洞察力は確かで、ズバズバ切ってズバズバ言い当てていくという、凄まじい切れ味!
このギャップがオモシロ可愛くて、読者はついキュンとしてしまうのです。
もう一人の主人公・祝依も、霧崎と同様に過去に心を抉るような出来事があり、犯罪を憎んでいます。
こちらも読者の興味を引きますし、それ以上に、苦しみながら生きているこの二人の行く末が、読者的には色んな意味ですごく気になるのですよね。
終盤にはどんな真実が明らかになるのか、遺体の真相だけでなく、二人の過去や思いにも注目です。
「なるほど!」が止まらない
解剖というと、「グロテスクな描写が多いのでは?」と構えてしまう方もいるかもしれませんが、『解剖探偵』では大丈夫!
もちろん遺体が出てくる以上、多少のグロ描写はありますが、血みどろスプラッターな感じではなく、あくまで医学的な目線で描かれています。
そのため、「グロいな~」という感想よりも「なるほど!」という感想の方が出やすいです。
遺体の体温とか(なんと肛門から差し込んで測ります)、顔のうっ血度合いとか(首吊りの重みや角度がわかります)、どれも専門的なのにわかりやすくて、読みながら思わず「へぇ~!」を連発してしまいます。
霧崎は解剖の過程や結果を刑事たちに詳しく解説するので、必然的に読者にも勉強になるのですよね。
ということで『解剖探偵』は、グロが苦手な方でも読みやすいですし、医療系のミステリーが好きな方ならむしろ興味津々で没頭できると思います。
またトリックやミスリードも多く、意外すぎる人が犯人だったり、どんでん返しもあったりするので、本格ミステリーが好きな方にも楽しめること請け合いです。
斬新さから注目されているミステリーですので、ぜひ読んでみてください。