木爾チレン 『二人一組になってください』- 誰と組んで誰を見捨てる?特別授業という名のデスゲーム

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卒業式の朝、私立八坂女子高校の3年1組27名は、教室に入った途端、唖然とした。

黒板に奇妙なルールが書かれていたのだ。

【特別授業】

・二人一組になること。

・誰とも組めなかった者は失格。

・失格者が確定したら、残った生徒たちで次の回を始める。

・一度組んだ相手とは再度組んではいけない。

・これを繰り返し、最後まで失格せずに残った者が卒業式に出席できる。

これは特別授業という名のデスゲームだった。

仲の良い者同士で組めば済む話ではない。

メンバーが奇数だった場合、誰かがあぶれることになるからだ。

それに回ごとに相手を変えているうちに、いつかは組める友達の数も尽きるだろう。

何より彼女たちを震撼させたのは、「失格者には死が与えられる」というルール。

あぶれたが最後、人生そのものに幕を下ろすことになるのだ。

助かるには誰かと組まなければならず、そしてそれは誰かを失格させること、つまり死に追いやることを意味する…。

卒業を賭したこのデスゲーム。

最後に残り、無事に教室を出ることができるのは誰?

目次

緻密で豊富な心理描写

誰しも「ぼっち」になることを恐れて、気の合いそうな人と交流を持とうとした経験があると思います。

でもそれが、自分以外の誰かを「ぼっち」にする行為だとしたら?

しかも死なせてしまうとしたら?

『二人一組になってください』は、そんな状況に陥った女子高生27名を描いた物語です。

卒業式を控えた朝、突如としてデスゲームが始まり、27名は必死に生き残る術を探ります。

もしも二人一組になれなければ、胸のコサージュの仕掛けが作動して死ぬことになるため、文字通り死に物狂い。

友達の多い人気者は順調に二人一組になっていきますが、友達が少なめの人は比較的良好な関係を築けていた人と組んだり、中には「友達だったと言える?」と疑問になるような相手と組む人も。

正真正銘の友達だったとしても、その人が既に他の相手と組んでしまっていた場合、断られます。

断る側も、相手が死んでしまうことを覚悟して断らなければなりません。

コサージュによってもたらされる死は、美しさも惨たらしさも鮮烈です…。

そんな極限のストレスと葛藤に苛まれた27名が、群像劇のようなスタイルで描かれるのですが、心理描写のリアリティがすごい!

「友達を死なせるのは嫌!でも自分が死ぬのはもっと嫌!」というエゴが交錯し、それぞれが命がけで組む相手を探します。

「あんな人と組むなんて死んでも嫌!」というパターンも出てきます。

人間関係における心理のバリエーションが豊富で緻密なので、読者はグイグイ引き込まれること間違いなし!

舞台が教室で馴染み深いため、感情移入しやすい点もポイント。

その分、ハラハラドキドキの度合いがすごいです!

これはいじめ?それとも…

27名はそれぞれ個性的なのですが、中でもとりわけインパクトがあるのが、水島美心。

美心は自他共に認める三軍女子で、体育の授業でペアを組む時にいつも余ってしまい、やむなく教師と組んでいる子。

別に嫌われているわけではなく、周囲と馴染めずにいたら、クラスの中でなんとなく出来上がっていったスクールカーストの最下位に定着してしまった感じです。

これって、いじめだと思いますか?

作中ではこの問いかけが度々行われるのですが、そのたび読者は考えさせられます。

悪意がなくても、周囲が無関心でいて、本人が疎外感や居心地の悪さを感じていたら、いじめになってしまうのでしょうか?

んな美心も、デスゲーム中にあぶれてしまった人からは「組もう」と誘われます。

もちろん我が身可愛さからの誘いです。

これって、本当に友達と言えるのでしょうか?

美心は、こんな関係を望んでいたでしょうか?

このように『二人一組になってください』では、「いじめと友達」について深掘りされています。

相手を利用するだけの「にわか友達」が次々に結成されていくのですが、その裏側にどんな気持ちが隠れているのか、読みながらハッとさせられることが多いです。

一見仲良さげな「二人一組」に潜む、残酷で恐ろしい人間関係。

一体誰がこれを乗り越え、無事に「卒業」できるのか。

ラストには、予想外のゲーム結果と大号泣の展開とが待っています。

身につまされる奥深いドラマ

『二人一組になってください』は、『みんな蛍を殺したかった』で大ブレイクした木爾チレンさんの作品です。

『みんな蛍を~』でもそうでしたが、木爾さんの心理描写は絶妙です!

押し寄せる不安、劣等感、自己否定。

そこから逃れるために己を磨いたり、勉学に励んだり、時にはマウントを取ることで安心したり、かえって自己嫌悪に陥ったり。

本書ではそういった心理が、27名の姿を通じて赤裸々に描かれています。

これらはヒューマンドラマとして興味深いのはもちろん、時として痛烈な皮肉となって、読者に自分自身の過去を思い出させます。

「あんなことをしてしまったな」

「こんな目にも遭ったな」

「もっと他にやりようがあったかも」

など、読者には色々な思いが渦巻き、読みながら胸が痛むこともあるかもしれません。

でもそれこそが、この作品の醍醐味だと思います。

過去を振り返り、いじめ、友達、無関心、信頼などを改めて見つめ直すことができるのです。

もちろん辛い内容ばかりではなく、安心感や温もりといった、人間関係のポジティブな部分も描かれています。

それらも含めて、とても奥の深い読み応えのある作品です。

デスゲーム物ですが、その枠では収まりきらない魅力がありますので、ぜひ!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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