南海遊『永劫館超連続殺人事件』- 繰り返される悲劇を止めるため、魔女と幾度も死に戻る

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山奥に佇む永劫館。

没落貴族ブラッドベリ家の長男であるヒースクリフは、3年ぶりにこの館に戻って来た。

ところが嵐による土砂崩れで、町と永劫館とを繋ぐ道が塞がれてしまう。

館に取り残されるヒースクリフと最愛の妹コーデリア、牧師や使用人たち、そして母の友人という謎の少女リリィ。

そのような中で、コーデリアとリリィが何者かに殺される。

悲嘆に暮れるヒースクリフだったが、目の前でリリィが絶命した瞬間、驚愕する。

死んだはずのリリィやコーデリアが生きており、さらに日付けが1日前になっていたのだ。

どうやらリリィは魔女で、死んだ時に誰かを道連れに時間を遡る「死に戻り」の能力を持っているらしい。

しかし1日前に戻ったものの、コーデリアもリリィも再び殺されてしまう。

再度リリィの力で時間を遡るも、やはり二人とも殺害される。

何度タイムリープを繰り返しても、状況を変化させても、必ず起こる二つの殺人。

ヒースクリフはこの凄絶な時間旅行の果てに、コーデリアとリリィを救うことができるのか?

目次

新要素「道連れ」が面白い

『永劫館超連続殺人事件』は、館×密室×タイムリープという三つの要素を詰め込んだ特殊ミステリーです。

・館 = 主人公の実家である永劫館。嵐でクローズドサークル化。
・密室 = 最愛の妹が密室で首を断たれて殺される。
・タイムリープ = 魔女リリィの「死ぬと1日戻る能力」で、無限に1日をやり直せる。

このように、ミステリーファンやSFファンの大好き要素を三つも兼ね備えた、なんとも豪華な作品なのです!

理想の結果が出るまでタイムリープを繰り返す物語は、ゲーム『ひぐらしのなく頃に』を始め多数の例があるのですが、『永劫館超連続殺人事件』の場合はそこに「道連れ」という斬新な設定もプラスされています。

魔女リリィが死ぬ瞬間、目を合わせていた人物をタイムリープの道連れにする、というものです。

この設定があるため、本書はよくあるタイムリープ物でありながらも全くありきたりな感じではなく、特異な面白さを持っていると思います。

さて、舞台は近代のヨーロッパに似た架空の世界。

主人公の母親の葬儀に参列するため、永劫館には総勢11名が集まるのですが、そんな中で館が嵐でクローズドサークル化し、さらに密室殺人まで起こります。

コーデリア殺しと、リリィ殺しですね。

リリィには「死に戻り」の能力があるので、殺されても死を無かったことにできます。

でも犯人を放置したままでは結局また殺されてしまうので、リリィは犯人探しのパートナーとしてヒースクリフを選びます。

彼もまたコーデリアを殺されて、その死を無かったことにしたいはずですから、利害は一致しています。

こうして二人は、悲劇を食い止めるべく怒涛の連続タイムリープを始めるわけです。

死の瞬間まで見つめ合う

本書の魅力を語る上で、もうひとつ絶対に外せないのが、タイムリープの条件です。

リリィがタイムリープの道連れにできるのは、死ぬ瞬間に目が合った人物だけです。

つまりヒースクリフがリリィとタイムリープを繰り返すには、毎回リリィの絶命を見届けなければならない、ということ。

これ、キツいですよね。いくら妹を助けるためとはいえ、死にゆくリリィの瞳をジッと見続けるなんて。それも、何度も何度も……。

でも万が一うっかり視線をずらしてしまったら、その時点でヒースクリフはタイムリープできず、妹を救うチャンスを永久に失ってしまいます。

だからどんなに辛くても、悲しくても、絶対にリリィの瞳から目を逸らしてはならないのです。

もちろん死の苦痛を何度も味わい続けるリリィも、相当辛いはずです。

いくら目的があるとはいえ、死ぬ瞬間まで意識をしっかり保ち、痛みで目をギュッとつむることもせずにヒースクリフを見つめ続けることは、想像を絶する苦しみだと思います。

このようにタイムリープにおける道連れルールは、とても痛ましいです。

でもこの痛ましさが、物語のドラマ性を一層高め、ロマンも添えています。

終盤になると、密室トリックの真相や犯人の正体がわかってくるのですが、これがまた特殊設定がしっかりと組み込まれており、斬新で緻密!

それでいて特殊設定に頼り過ぎず、ロジックがきっちりと成立しているところが見事。

悲劇の展開も見どころですが、謎解きパートの面白味も格別です!

心惹かれる要素満載の一冊

作者の南海遊さんは、本書が本格ミステリー初挑戦だそうです。

そうとは思えないくらい、『永劫館超連続殺人事件』は完成度が高く、ハイクオリティ!

事件の凄惨さといい、ダイナミックで劇的な展開といい、徹底的に練り込まれたトリックといい、どれをとってもミステリーファンを唸らせ、ハラハラドキドキさせてくれます。

また基本設定が、古典文学やアニメ、ゲームなど様々なジャンルの作品を彷彿とさせるものとなっており、そこもポイントです。

たとえばヒースクリフは、世界的な名作文学『嵐が丘』の主人公と同名ですね。

妹のコーデリアは、盲目で車椅子の美少女なのですが、これはアニメ『コードギアス』の主人公の妹そのまんま。

死に戻り設定についてはゲーム『ひぐらしのなく頃に』や、ミステリー小説『七回死んだ男』に通ずるものがあります。

その他「○○の魔女」という言い回しや「観測者」という概念など、人によってピンと来るものは色々とありそうです。

このように『永劫館超連続殺人事件』は、ミステリーのみならず様々なジャンルのファンを惹きつける作品です。

最初に「館×密室×タイムリープ」とご紹介しましたが、本書の魅力はそれだけにとどまりません。

それでいて決して「寄せ集め」ではなく、道連れ設定によるオリジナリティやドラマ性が、本書を極めて個性的でインパクトのある作品として輝かせています。

多くの方が興味津々で読める作品だと思いますので、ぜひお手に取ってみてください!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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