高田崇史『QED 恵比寿の漂流』- 対馬で連続殺人事件発生!川に海に流れてくる首無し死体の謎とは!?

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長崎県対馬、浜に乗り上げた小舟で、首無し死体が発見された。

舟の中で死体は、首からどす血を大量に流し、半ば浸かるように仰向けに横たわっていた。

通報を受けた警察署の雁谷巡査長は、現場に赴き、開口一番に叫んだ。

「またかい」

雁谷が叫ぶのも、無理はなかった。対馬では、つい先月にも同じような事件が起こっていたからだ。

川の下流に流れ着いた大きな皮袋。中には、やはり首無し死体が入っていたのだ。

ほどなくして、三人目の被害者が発見される。

今度の被害者はまだわずかに息があり、死ぬ間際に「さいきょう、くぎょう」という謎の言葉を残した。

なぜ対馬で、残忍な事件が立て続けに起こるのか。

被害者が残したダイイングメッセージは、一体何を意味しているのか。

神社巡りのために北九州を訪れていた薬剤師・桑原崇が、この奇怪な謎に挑む!

目次

今作はミステリー要素UP!

『QED 恵比寿の漂流』は、高田崇史さんの大人気歴史ミステリ「QEDシリーズ」の外伝です。

毎度、国内外の様々な地域にまつわる歴史の裏側を見せてくれるシリーズですが、今作の舞台は対馬。

対馬は九州と韓国の間に浮かぶ島で、「国境の島」と呼ばれており、古くは大陸からの侵略に備えて防人が置かれたことで知られています。

他にも元寇や朝鮮出兵、朝鮮通信使など、軍事においても外交においても重要な拠点であり、常に緊張感が漂っていた地域です。

そんな対馬で、連続首切り殺人事件が発生します。

謎を解くのは、シリーズの主人公にして博学の薬剤師・タタルこと桑原 崇(くわばら たかし)。

タタルは、同じく薬剤師の棚旗 奈々(たなはた なな)と一緒に北九州に来て、神社巡りを楽しんでいたところ、ひょんなことから殺人事件に関わることになるのです。

展開としては、いつも通り。

警察や関係者の前で、タタルが歴史や古典における蘊蓄を語りまくって、グウの根も出ないほどの正論に、犯人がどんどん追い詰められていきます。

シリーズを読み続けていた方にはおなじみのパターンですね。

ただし今作は、ミステリー要素が強めになっています。

首切り殺人が相次ぎ、一体は皮袋で川に流され、一体は小舟で海に流され、三人目の被害者は謎のダイイングメッセージを残し…と、奇怪なことだらけ。

これらの謎が、対馬の歴史とどう関係しているのか。

いつも以上に知的好奇心をくすぐられ、緊迫ムードを楽しめます。

神々との予想外の繋がり

今作では、神々の名前も多く登場します。

歴史上の重要な拠点だった対馬ですが、実は神事においても重要で、たとえば『古事記』や『日本書紀』によると、対馬は「最初に誕生した島」のひとつとされています。

そのためか、対馬には神社が約130も存在しているそうです。

「延喜式」(神社のデータベースのようなもの)に記されている社については、九州全体の約3分の1が対馬に集まっているのだとか。

これほどの地域ですから、今作のタタルは神事についても語る語る!

安曇磯良(あづみのいそら)や素戔嗚(すさのお)といった海にまつわる神々、神話に登場する宝珠「満珠・干珠」など、蘊蓄が盛りだくさんです。

これがまた面白くて。

知識として興味深いのはもちろん、事件との意外な繋がりの推理や考察も楽しくて、読み始めると止まらなくなります。

文体がライトでわかりやすいことも相まって、読み始めると止まらなくなるのですよね。

展開がお決まりのパターンでも、これがあるから、このシリーズやめられない!

そして読者の興味を特にそそるのが、タイトルにもある恵比寿様。

言わずと知れた七福神の一柱ですが、実は渡来の神や漁業の神として崇められています。

その裏には、さらに驚愕の真実が!

恵比寿様の正体と、事件との予想外の絡みは、今作一番の見どころです。

タタルの熱弁と恐るべき真相を、ぜひお楽しみください。

ラストに出てくる糸島にも注目!

日本への関心が養われるシリーズ

「QEDシリーズ」はとても息の長いシリーズで、今作『QED 恵比寿の漂流』は、外伝も含めると、なんと二十四作目になります。

第一弾が1998年発行ですから、約三十年もの間、読者を楽しませてくれたわけで、なんだか感慨深くなりますね。

毎度、読むたびに日本の歴史や古典への思い入れが強くなりますし、作中の舞台に行ってみたくなります。

今作では、舞台は対馬。

歴史的に重要な意味を持つ地域だとは知っていましたが、まさかここまで深くて、神事にも関わっているとは予想外で、ワクワクしながら読めました。

特に竜宮城伝説がある和多都美神社は、興味深かったです。

今作でもまたまた舞台に心惹かれたわけですね(笑)

このように、日本への関心がより広くより深くなるところも、このシリーズの大きな魅力のひとつでしょう。

また、シリーズがこれだけ長く続いていると、作中でもある程度の時間が経過しています。

主要メンバーたちは相応に年齢を重ねていますし、人間関係にも変化や進展が見られます。

今作で特に大きかった変化は、ヒロインの奈々が「奥さん」と呼ばれていた点。

誰の奥さんかって、もちろんタタルのですよ。

奈々は以前からタタルに好意を寄せてはいたのですが、いや~、二人はいつの間にそういう関係になったのでしょうね。

残念ながら本書では経緯は詳しく語られません。

きっとシリーズは今後も続くので、どこかで二人の恋路が語られると思います。

そういう意味でも、要注目のシリーズですね。

興味がありましたら、ぜひぜひ!

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この記事を書いた人

年間300冊くらい読書する人です。
ミステリー小説が大好きです。

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